麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
クレメントを部屋に招き入れると、ディセルはぴったり扉を閉めた。

クレメントに椅子を勧め、自分はベッドに座る。

しばらくの間、どちらも何もしゃべらなかった。

それは少なくともディセルにとっては居心地の良い沈黙だった。

どう切り出すか、どこまで打ち明けるか、じっくり考えることができる。

やがて、じっとディセルを見つめていたクレメントが切り出した。

「ディセル様が何に落ち込んでいらっしゃるか…わかります」

「……え?」

「フリムは鈍くて気が付かなかったようですが、姫巫女さまのことですね? 姫巫女様と…そのご婚約者様のこと。

お好き…なんですよね? 姫巫女様のことが」

単刀直入なその台詞に、ディセルは一瞬固まった。

まさかそこまで見破られているとは思わなかった。

ディセルはしばらく何も言えなかったが、クレメントは辛抱強くディセルの返事を待ってくれていた。

何か返事をしなければならないことは分かっていた。

そして…ディセルにはうまい嘘がつけなかった。

やがて、ぽつりと言った。

「………うん」

言った途端、不覚にも涙がこみあげてきた。

ディセルは慌ててそれを拭いながら、涙声でちょっと笑った。

「…かっこ悪いだろ」

「いいえ。神人様に、人を想うあたたかな心があってくださって、とても安心していますよ」

「クレメント…」

「恋とは不思議なものですね。少し…昔話をしてもいいでしょうか」

クレメントの穏やかな声を聞いていると、それだけで落ち着く。

ディセルは無言でうなずき、クレメントは静かに語りだした。
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