世界の中心
最近、自分が世界の中心じゃない事に気がついた。別にすごくおもしろいわけでもなく、すごいかっこいいわけでもないが、なんとなく自分が一番すごいと思っていた。何がすごいのかは自分でもよくわからない。人に自分が一番すごいと言うこともなかった。それはバカにされると思ったわけではなく、自分がすごいのは自分が知っていればよく、人に言うことでもないと思っていたからだ。そして、僕はすくすく育っていき大人になって五反田にある製薬会社で働いた。上司に怒られても、部下にバカにされてもさほど気にならなかった。直すべきだと思ったところは直したし、自分が正しいと思ったところは直さなかった。自分が世界の中心だと思っていたが、他人をバカにすることもなかった。もちろん本当にバカな奴もいた。心の底からこいつはすごいと思った奴もいた。しかし、そいつのほうが相対的に見て二枚も三枚も上だと思っても、僕の気持ちはゆらぐ事はなかった。根拠は無いと言って問題ないくらい無いのだが、なにか数学の上でしか存在しないような一本の直線が僕の中心に縦にまっすぐ通っているような気がしていた。それは影も形もないものだったが、存在感が物質的だった。さらにつけ足すと、それは絶対的なものだが、それほど重要な事ではなかった。ただ、僕が生まれた時からそこにあるものだった。それが僕には普通のことであり、ただあるだけのものだった。だから僕は世界の中心であることに疑問も持たなければ、誇らしいとも、自分の頭がおかしいとも思わなかった。つまり、世界の中心である事は得でもなければ損でもなく、ただの事実だった。なので僕は世界の中心である事を忘れたり、思い出したりしたりしながら生きていた。ちょうど人々が自分の年齢に突然驚いて、まあそんなものかと思うように。
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