まっしろな遺書
06月:バケットモンスター
 2015年6月01日

 山本のお葬式が行われる。
 十三は、恵子さんに了承を得て、山本に教えてもらったたこ焼きを作った。

 非常識だと思われる行為だろう。
 しかし、非難の声を上げる人は、1人も居なかった。
 みんな、喜んでくれた。

「山本さんのたこ焼きが受け継がれた」

 そう言って涙を流す人も居た。
 十三は、嬉しかった。
 人に喜ばれる事が何よりも嬉しかった。

「十三のたこ焼き大盛況だね」

 美穂が、そう言って十三にコーラーの入ったペットボトルを渡した。

「ありがとう」

 俺は、蓋を開け、一口運んだ。

「この調子だと、お店開けるね」

「山本さんにも似たようなことを言われたよ」

「退院したら、お店開こう!
 絶対繁盛するよ」

「でも、屋台にしろ店にしろお金がかかるよ」

「そのことなのですが……」

 恵子が、十三たちに話しかけて来た。

「恵子さん?」

「屋台は、主人が使っていたモノを使って頂けないでしょうか?」

「え?」

「生前主人に頼まれました。
 『屋台は十三君に譲ってやって欲しい』と……」

「いいのですか?
 あの屋台は、山本さんにとって大切な……」

「どうせ、私達が持っていても仕方がないモノですから、是非もらって下さい」

「ありがとうございます」

 十三は、深く恵子に頭を下げた。

「大切にしてくださいね」

「はい!」

 恵子は、ニッコリと微笑むとその場を去った。

「これで、ますます死ねなくなったね」

「もう死のうなんて思わないよ」

「ホントに?」

「ああ……」

「ふーん」

 美穂が、俺の体を後ろから抱きしめる。

「十三、死なせないからね」

 美穂が、そう言って耳元で笑う。
 十三は、とりあえず「うん」とうなずいた。
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