君と春を



この学校は放課後になるとそれぞれ時間を楽しむ。外出も門限まで戻れば許可される。

この日は本屋へ行きたいと思い立ち、許可を取って出かけることにした。

校門を通り抜けたところでふと気づくと

周りの子達の声がした。

「きゃーっ!またいるよ!」

「かっこいいよねぇ。でもいつも誰待ってるんだろ?」

彼女たちの視線の先には……優也がいた。

「…っ!!」


息を飲む。


心臓が跳ねる。


とっさに逃げたいと思うけれど、


地面に張り付いたように足が動かなかった。

私を見つけた優也は優しく微笑みながらこちらへ来る。

そして…気づくと腕の中。

離れたくても身体が動かなかった。

優也の腕、感触、匂い。

それらは忘れたはずの恐怖をいとも簡単に思い出させた。

「ゆう…や…。なんで…?」

驚く私にクスリと笑い、耳元で囁く。

「そんなに会いたかった?

美月に会いたくて毎日ここに来てたよ。

やっと会えたね。
今日は桜の花がキレイに咲いてるよ。

美月みたい。好きだろ?桜。」

……毎日?いつから?どうして?

狼狽える私は周囲にどんな風に見えただろう。

くらくらとするのを必死に抑え、震える腕で胸を押しながら恐怖を悟られないように強く反論する。

「優也!もう来ないで!

私は絶対あなたのものにならない!」

精一杯伝える。

…それでもやっぱり優也は笑顔だ。

しかも、今までで最上級の。

少し考えたような表情の後、また笑顔を向ける。

「わかった。もうここには来ないよ。
だから最後に、デートさせて?それで全部、最後にする。

今度の日曜日迎えに来るから。いいね?」

……正直嫌だった。だけど、これでもう皆に心配かけずに終われるなら…


そう思って、


頷いた。



本当に、バカな選択だった…



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