君と春を



大学卒業から勤めているHARUSEはアパレル関係を手広く展開する業界でも老舗で大手の会社。

その本社で私は秘書課の所属になっていて、担当である専務専用の一室へ直行することになっている。

「おはようございます。」

いつもどうり挨拶し、デスクに着くと聞かされたのは思いがけない言葉だった。

「あぁ、冬瀬くん。僕今日で退社だから。」

「………はい?」

突然思ってもみなかったセリフに思わず凝視してしまうけれど、そう言った高野専務の表情はニコニコしている。

…この人はいきなりなにを言ってんだか…

専務は50代そこそこ。まだまだ定年には遠い。仕事ぶりも至って真面目だし、辞める理由なんてどこにもない。

「……何の冗談ですか?そんなお話聞いてません。今日の予定を打ち合わせましょう。」

無表情でさらりとかわして日課のスケジュールチェックをしようとすると高野専務は困ったような表情で私を止めた。

「いや、実は簡単だが引き継ぎはもう済ませてるんだ。君が有休取ってた金曜日にね。

2週間くらい前から決まってたんだけど冬瀬さん体調良くなかったでしょ?後で話そうと思ってたら機会逃しちゃって。」

そして私に伝えられたのは、地方に住む奥様のお母様が亡くなり、残ったお父様の世話をしたいと妻に強く懇願されたということ。

それは、いつか都会を離れてゆっくり過ごしたいと願う自分にとっても好都合だったということだった。

「大丈夫。後任の彼も間もなく来るよ。かなりのイケメンだからさすがの君でも惚れちゃうかもね。

一時期同じ部署でいたからわかるけど仕事もかなり出来る人だから、君もいい経験積めるよ。

…というか、君じゃないとたぶん務まらない。

じゃ、僕は社長に挨拶して行くから。彼が来るからそれまで適当に待っててね。」

そう言うと、専務はさっさと社長の元へ行ってしまった。



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