君と春を



「おはようございます。」

翌日、努めて普段どうりに振る舞う。

「………おはよう。」

デスクにつき、日課のスケジュールチェックを始める。

「冬瀬、昨日は……」

「今日は午前中は社内会議です。9時に営業課前の会議室にお入りください。その後は急な要件は入っておりません。では、コーヒー入れますね。」

有無を言わさぬように会話を終わらせ、給湯室に立った。

「冬瀬……なぁ。」

「コーヒーならお持ちしますよ。少し待っててくだ……!」

気づくと後ろに立つ専務に肩を掴まれ、振り向かされていた。

「聞けよ!俺はコーヒーの心配をしてるんじゃない。

……………ごめん。もう、何も言わないから。」

綺麗な顔を苦しそうに歪めて、肩を掴む手をだらりと離して、専務はそう言い自分のデスクに戻って行った。



……これでいい。



これでもう、私に興味を持つことはないだろう。

ざわめくこの胸も大人しくなるだろう。



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