ヒカリ
「泉水とは、もう会わない方がいいかなって。」


ベンチに並んで座る私たちの間を、春の風が吹く。
若葉がさらさらと揺れる。


「どうして?」

「好きだから。」

「は?」

「そういう約束だったの。私は結婚してるから、もしも好きになったらさよならするって。」

「なにそれ?よくわかんないんだけど、つまり不倫になるからとかそういうこと?」

不倫。
なんだかそれは違う気がする。

「うまく言えないんだけど、これはたぶん私の問題なの。私が向き合わなきゃいけないことなんだと思う。」

「え、ごめん。全然わかんない。」

「私も。」

「なにそれ。」

陶子ちゃんは声を出して笑った。

「よくわかんないけど、つまり、恵玲奈ちゃんは泉水が好きなんだ。好きだけど、一緒にはいられない、どうしてかはよくわからない、と。」

「まぁ、そういうこと。」
< 120 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop