ヒカリ
「あ、すみません。工事中みたいです。」

タクシーの運転手さんが振り向いて申し訳なさそうに話す。

隣で、正人さんがいいですよ、と言うのが聞こえた。

タクシーが徐行を始める。道の先では、水道管の工事をしていて、片道通行になっているようだった。

ガードマンの持つ誘導棒の赤い灯りが窓ガラス越しににじんで見える。


タクシーがのろのろと動きながら、工事の場所を通り過ぎた時、ガードマンの姿がはっきり見えた。

泉水だった。


泉水はガードマンの制服の上から、レインコートを着て、タクシーの運転手さんにぺこり、と頭を下げる。

春の雨が、泉水の体を濡らしていた。

泉水、寒がりなのに。

思わずタクシーの窓に手をついた。
結露した窓ガラスはひんやり、として冷たかった。

泉水は私に気付かない。
タクシーは通りすぎる。



「この道、まっすぐでいいですかね。」

運転手さんの言葉に、はっと我に帰った。

「いいですよ。」

隣で正人さんがそう返すのが聞こえた。


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