オオカミくんと秘密のキス
「つーかお前はあっち行ってろよ。見んなっつっただろ」


布団を口元の辺りまでかぶる尾神くんは、そう言ってテレビを観始める。






「熱は下がったの?」

「知らない。朝測ったっきりだから…」

「もー!体温計どこ?」


キョロキョロと辺りを見渡すと、電話機のある棚の上に体温計を発見。私はそれを取り尾神くんに渡した。





「ほら測って!」

「…めんどくせえ」

「いいから!」


渋々と体温計を手に取り、体温を測り始める尾神くん。私はソファーの内側に回り込み、床に膝をついて座った。





「声がひどいね。喉痛いでしょ?」

「うん…」

「何か食べた?」

「食ってない」


え!





「食べてないの!?何も!!?」

「だって食欲ねえし。薬は飲んだけど」


食べてないのに薬飲んだの?普通は食後に飲むよね…医者の息子のくせにそんなむちゃくちゃでいいのかな…





「頭は痛い?」

「少し」

「そう…」


私は尾神くんのおでこにそっと手を当ててみた。

うーん…ちょっと熱いかな…


手に伝わってくる体温から尾神くんの風邪のレベルを自分なりに測っていると、尾神くんは私の手首を掴みいきなり自分の方に引き寄せた。





「きゃっ…」


バランスを崩し尾神くんに上から抱きつくような体制になる。





「ちょっと!何やって…」

「今日ごめん…昼飯食う約束してたのに…」

「え…」


覆いかぶさる私を抱きしめながら、尾神くんは風邪で枯れた声で耳元でそう囁いた。






「し、仕方ないよ…風邪だもん…」


尾神くんの体温が体中に伝わって来る。熱をおびた尾神くんの体が自分にピタリとくっつく。




「…」

「…」


自然に会話がなくなってしまった。これはいいムードというやつか…?





ピピピ…


尾神くんの熱を測っていた体温計が鳴ると、私はハッと我に返った。





「はいはい見せてねー!!」

「ぐっ…」


無理矢理自分から尾神くんを突き放して、体温計を見ると37.8だった。



「まだちょっと高いから安静にしてた方がいいよ。ご飯炊けたら雑炊作るから出来るまで寝てなね?隆也くんのご飯は心配しないでいいからね。あ、喉乾いてるならスポーツドリンク買ってきたけど…いる?」

「………ん」


いじけたようにそっぽを向く尾神くんは、素っ気なく返事をした。私は冷蔵庫からスポーツドリンクを出して持っていくと、尾神くんは「ありがと」と言い口数が減った。

しばらくするとご飯が炊けるジャーの音がして、声をかけようとソファーを覗き込んだが尾神くんは寝てしまっていた。

長いまつげにきれいな顔の尾神くんにドキッとしながら、私はテレビの音量を少し下げてキッチンの方に戻った。

そして夕飯の準備に取り掛かり、雑炊は後回しにすることにした。





ジュ~ジュ~…


夕食のハンバーグを焼く音がやたら大きく感じ、寝ている尾神くんがうるさくないかと気になってしまう。

焼けたハンバーグをお皿に乗せて、晩御飯の一通りの準備は終了。リビングの壁にかけられているおしゃれな時計を見ると、時刻は7時を少し過ぎたところ。



弟達呼んで来ようかな…

あ、でもここで食べたらうるさくて尾神くんが起きちゃうかも…


私はそっとリビングを出て階段を上り2階へ向かった。2階には6つ程の部屋があって隆也くんの部屋がどこにあるのか迷ったが、テレビゲームの音楽ような音が聞こえて来た突き当たりの部屋をとりあえずノックした。





コンコン


「隆也くん?洋平?いる?入りまーす」


部屋のドアを開け中を覗くと…






「ガーガーー…」

「スースーー…」


部屋の中央のマットの上で、隆也くんと洋平は仰向けになって爆睡している。
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