龍泉山の雪山猫
ジンタの手
丸一日ゆっくりしたら、次の日はだいぶ体が楽になっていた。まだ本調子じゃないけど、これ以上休んでられないから、わたしは朝から畑に出ていた。

外で仕事をしていると、村の人が何人も大丈夫?もう具合はいいの?って声をかけてくれた。
まだ本調子じゃないけど、ずっと寝てられないし...。それに...。わたしは何気なく龍泉山の方に目をやった。風が木々を優しく揺らす。アオの声が頭の中に響く。『元気になったら神社に来い。待ってるぞ』アオが、待ってる...。
わたしは自分でも気づかないうちに道具を地面に落として山の方へ歩いて行った。

畑に囲まれた砂利道を越えて、坂道を走っていく。
まだ、ちょっと苦しい。咳が出てきたからちょっとだけ立ち止まって、また走り始めた。走らなくたって、いいんだけど...。どうせまた、意地悪されるし...。お見舞いのお礼なんて何も持ってないのに。

それでも走る足は止まらない。
わたしの頭の中はアオの横顔でいっぱいになってた。




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