白樺は空を見上げた。 そして、立葵は泣いていた。

ASIDE:1 陵って漢字。

「おう、陵!椛は?」
「知らないよ。あんたのクラスじゃない
の?」

 あっちゃー、すれ違っちゃったか。
教科書を借りようと思ったのに。

「何々~?もしかして楓、教科書あたりを忘
れちゃった?」

 ニヤリと不敵な笑いを顔に浮かべ聞いてく
る。
こいつはなんでこう勘が良いんだろう。
 昔から、ババ抜きだとかポーカーだとか、
読み合いのゲームで勝った事が無い。

「なんなら、陵ちゃんが貸してあげても良い
よ~?」
「なんか、弱みを握ろうとされている様な気
がしてしょうがないんだが…」
「気のせい気のせい!」

 そう言いながら、ゴソゴソ鞄の中から英語
の教科書を取り出す。

「あれ?英語だって言ったっけ?」
「ん?いや、言ってないよ。言われなくたっ
て解るよ…楓の事だもん…
 楓の事なら何でも知ってるよ?」

 なんだ、そのブリッ子。目キラキラさせて
言うな。気色悪いぞ。
さっさと、借りて教室に戻ろう。

「さんくす。じゃあな。」
「ぶ~!ノリ悪すぎ~。」

 俺は教科書を受け取って帰ろうとすると、
教科書の名前が目に入ってきた。

「そう言えば、お前"陵"で"ミサキ"って読む
んだよな?これ、陵辱とかの陵だろ。"ミサキ"
って読むのか?」
「陵辱とか言うなー!!"陵"ってのはね、大
きな丘を指したり、天皇の墓とかを指すんだ
よ。"ミササギ"って言ってそれが、縮まって
"ミサキ"って読むんじゃないのかな?」
「ふぅん…じゃあ、お墓?」
「"陵"って言う字は陵駕とか、陵ぐって言う
漢字にも使われる。だから人の上に立つって
意味で付けられたらしいよ。」

 ああ、そういえばこいつは荒屋家の次期当
主だったっけ。
 荒屋家ってのは、囲目市が出来る前からこ
の地に支配的な一族。
所謂御三家―佐々木家、荒屋家、そして俺の
家である樋下家―って奴の一つなわけだが、
特に荒屋家は政財界に大きく顔が利き莫大な
富と、権力を手にしている。
< 22 / 27 >

この作品をシェア

pagetop