透明な海~恋と夕焼けと~








「……兄貴は、その事故で……絵を描けなくなるほどの……大怪我を負ったんだ………」




絵を描けなくなるほどの、大怪我?

でも仁科さん、怪我をしているようには見えなかったけど……。




気になったけど。

基樹はそれ以上語ろうとしなかった。





「基樹」

「…何?」

「何で、美術部辞めたの?」

「………」

「浅居さん、基樹が辞めて寂しそうだったよ。
基樹は絵が上手いんだから、続けた方が良いよ。
遠いけど、美大に入るって言っていたんでしょ……?」

「無理だよ」





基樹は溜息をつきながら言った。





「俺は兄貴以上にはなれないから…。
俺は兄貴から、絵だけじゃなくて…沢山のモノを奪ったんだ。
もうこれ以上……兄貴のモノは奪いたくねーんだ………」




基樹の目から、はらり…と涙がこぼれた。




「仁科さんから奪った……?」

「ああ……」





< 59 / 92 >

この作品をシェア

pagetop