続 音の生まれる場所(上)
帰りの電車に揺られながら、涙が零れ落ちそうになる。夏芽の言った言葉は、私の心を大きく揺さぶった…。
「…待ってなんか…ないよ…」
唐突に溢れてきた涙に戸惑いながら、慌ててハンドタオルを押し当てた。
「ナツの気のせいだよ…私…坂本さんのことなんて、この最近、考えたことも…」
「ウソ!真由がそんな器用な性格じゃないって、私が一番よく知ってるよ!」
断言する夏芽に反論できなくなる。声の詰まる私に、理由を話し始めた。
「朔が死んだ後、何年忘れずにいた⁉︎ 真由はその間ずっと、ブラスやフルートも避けてたくらいなんだよ⁉︎ それなのに、坂本さんのこと考えないなんてウソ!…待ってないなんて…あり得ない!」
強く言い切る声が震えてる。それを聞いて胸が苦しくなった。
「…今のカレシを拒否してしまうのも、ほんとは好きだと思ってないからじゃないの⁉︎… 好きなのは…坂本さんだからじゃないの⁉︎ …三年前も今も…ずっと、待ってるんじゃないの⁉︎ 」
必死になってる姿に、気持ちのタガが外れる。考えてはいけないことを突き付けられて、弱い自分が顔を出した……。
「…待ってなんか…ないよ…」
ポロポロ涙が零れ落ちる。あの時みたいに、感情のコントロールができない…。
「…待ってるなんて…言えないもん…私…」
ハンドタオルを握りしめる手に力が入る。悔やんでも悔やみきれない、あの日の夜のことが頭をかすめた…。
寂しさのあまり柳さんと寝てしまった。後に残ったのは後悔だけだった。
こんな事をして、坂本さんが帰ってきた時、彼に何をどう言えばいいのか分からなくなった。あれ程注意してくれたのに、どんな顔をして会えばいいのか分からなくなった…。
送別会の夜、頬を叩いてまで、流されないようにと注意してくれた彼。忘れないと…約束した。
なのに…それを破ってしまった…。寂しさを埋めるために、柳さんを利用した…。
こんな私のことを…彼が許してくれる筈がない…。
帰って来ても…元へ…戻れる訳がない…。
「…私は…帰りを待ってちゃいけないの…」
声を上げて泣かないよう、ハンドタオルを押し当てた。必要以上に零れ落ちる涙に、対処のしようがなかった…。
向かい側にいる夏芽までが、涙をこぼす。二人して鼻をグズつかせながら、しばらく黙り込んだ。
「私は…一途な真由が好き…坂本さんのことも…待ってていいと思う…」
鼻をグズつかせながら、夏芽が言い出した。
「さっき…カレシと寝てみたらって言ったのも、そしたら真由が気づくかと思ったの…。自分には…坂本さんが必要だって…」
その言葉に大きく胸が震えた。涙を目に浮かべたまま、彼女を見た。
「だって…彼の音がないと…真由がまた…笑わなくなるもん…」
泣きだしそうな顔をして、必死にそれを堪えてる。唇を噛む夏芽の姿に、自分の方が泣けてしまう…。真っ赤な目をした彼女の言葉は、胸の奥底にしまってあった私の弱さを、完全に引き出してしまった…。
「せっかく坂本さんの音で生き返ったのに…彼を遠ざけたら、また生きた心地しなくなるよ…」
「…待ってなんか…ないよ…」
唐突に溢れてきた涙に戸惑いながら、慌ててハンドタオルを押し当てた。
「ナツの気のせいだよ…私…坂本さんのことなんて、この最近、考えたことも…」
「ウソ!真由がそんな器用な性格じゃないって、私が一番よく知ってるよ!」
断言する夏芽に反論できなくなる。声の詰まる私に、理由を話し始めた。
「朔が死んだ後、何年忘れずにいた⁉︎ 真由はその間ずっと、ブラスやフルートも避けてたくらいなんだよ⁉︎ それなのに、坂本さんのこと考えないなんてウソ!…待ってないなんて…あり得ない!」
強く言い切る声が震えてる。それを聞いて胸が苦しくなった。
「…今のカレシを拒否してしまうのも、ほんとは好きだと思ってないからじゃないの⁉︎… 好きなのは…坂本さんだからじゃないの⁉︎ …三年前も今も…ずっと、待ってるんじゃないの⁉︎ 」
必死になってる姿に、気持ちのタガが外れる。考えてはいけないことを突き付けられて、弱い自分が顔を出した……。
「…待ってなんか…ないよ…」
ポロポロ涙が零れ落ちる。あの時みたいに、感情のコントロールができない…。
「…待ってるなんて…言えないもん…私…」
ハンドタオルを握りしめる手に力が入る。悔やんでも悔やみきれない、あの日の夜のことが頭をかすめた…。
寂しさのあまり柳さんと寝てしまった。後に残ったのは後悔だけだった。
こんな事をして、坂本さんが帰ってきた時、彼に何をどう言えばいいのか分からなくなった。あれ程注意してくれたのに、どんな顔をして会えばいいのか分からなくなった…。
送別会の夜、頬を叩いてまで、流されないようにと注意してくれた彼。忘れないと…約束した。
なのに…それを破ってしまった…。寂しさを埋めるために、柳さんを利用した…。
こんな私のことを…彼が許してくれる筈がない…。
帰って来ても…元へ…戻れる訳がない…。
「…私は…帰りを待ってちゃいけないの…」
声を上げて泣かないよう、ハンドタオルを押し当てた。必要以上に零れ落ちる涙に、対処のしようがなかった…。
向かい側にいる夏芽までが、涙をこぼす。二人して鼻をグズつかせながら、しばらく黙り込んだ。
「私は…一途な真由が好き…坂本さんのことも…待ってていいと思う…」
鼻をグズつかせながら、夏芽が言い出した。
「さっき…カレシと寝てみたらって言ったのも、そしたら真由が気づくかと思ったの…。自分には…坂本さんが必要だって…」
その言葉に大きく胸が震えた。涙を目に浮かべたまま、彼女を見た。
「だって…彼の音がないと…真由がまた…笑わなくなるもん…」
泣きだしそうな顔をして、必死にそれを堪えてる。唇を噛む夏芽の姿に、自分の方が泣けてしまう…。真っ赤な目をした彼女の言葉は、胸の奥底にしまってあった私の弱さを、完全に引き出してしまった…。
「せっかく坂本さんの音で生き返ったのに…彼を遠ざけたら、また生きた心地しなくなるよ…」