溺惑バレンタイン(『恋愛遺伝子欠乏症 特効薬は御曹司!?』番外編)
「あの、斉藤で予約していると思うんですが」
「斉藤さまですね、承っております」

 そうして案内係に連れて行かれた席は、窓に面した半円形のソファ席で、二月のこの時期、すでに日の落ちた都内の夜景が広く見渡せる。亜莉沙がソファに座ると、案内係が言った。

「メニューを先にお持ちしましょうか、それともお連れさまがいらっしゃってからにいたしましょうか?」
「あ、連れを待ちます。すみません、もうすぐ来ると思うんですけど……」
「かしこまりました」

 案内係が席を離れ、亜莉沙はホッと息を吐いた。航が十五分も遅刻するなんて珍しい。待ち合わせのときはほとんどいつも彼の方が先に来ていた。亜莉沙に会えるのが待ち遠しくてたまらない、といった表情で待っていてくれたのに……。

 とはいえ、荷物を部屋に置いたらすぐに来てくれるはず。紙袋の中身はお泊まりセットか何かかな、などと思いながら、亜莉沙は宝石箱をひっくり返したような夜景に一人で見入っていた。

(航さん、遅いなぁ……)

 きらびやかな夜景にも見飽きてきた頃、ようやく航が係員に案内されて席にやってきた。

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