不自由恋愛シンドローム
部活の前、何か姫華に渡すものがあった気がする。

前日に借りていた本か何かを返しに行ったのか・・・・

それ自体は詳しく思い出せないが、誰も居ない教室に、姫華はいた。





呼びかけても振り向かない姫華は、なぜか制服ではなく

ジャージを着ていて。




「どうした?なんでそんな格好・・・・・」

回り込んで見えた姫華の手には切り刻まれた制服。



「なに・・・・これ・・・・」

間抜けな言葉しか出なかった。


「慧ちゃん・・・・・」

「誰がこんなこと・・・・・・」

「誰だっていいよ」

「そういう訳にいかないだろ・・・・先生に言って・・」

「ううん、いい。意味無い」

「意味無いって・・」

「誰がやったとか、誰に言うとか、そういうのじゃない気がする」

「・・・・・・・・いつから?」

「いつからかな・・・・小学校の頃も少しはあったけど・・でも
やっぱりここまでは中学に入ってからかな・・・」




でも、俺はなんて子供だったんだろう。

「なんで姫華がこんなことされるんだよ」

何も分かっていなかった。



「なんで?なんでか分からないの?慧ちゃん」

「え?」

「慧ちゃんが女の子に人気で、私が可愛くて、私達が仲がいいからだよ」

「なにそれ」

「・・・・分かってるよ、私も慧ちゃんも何も悪くないのにって、思うよ」

俯く姫華の横顔に西日が当たる。

それでも姫華は泣いていなかったのだ。




「私が弱いから・・だからこういう事になるんだよ」

「・・・・・」

「私、きっともっと強くならないとダメなんだね。
みんなと仲良くなりたいとか、きっと無理なんだね」

「姫華・・・」

「慧ちゃん、側にいてくれる?」




―側に、ずっと側に・・・・・・慧ちゃんさえ側にいてくれれば・・・・・
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