お見合いに来ないフィアンセ
 私はホテルを後にすると、行先も決めずにただただ歩き出した。

 馴染みない街だし。

 ここがどこだかわからない。

 ただむしゃくしゃしているから、歩きたい。

 目的を決めずに、曲がりたいと思ったときに曲がって。赤信号のときにだけ足を止める。

 ふと気づけば、よくわからない大きな大学の正門にたどり着いた。

『桃桜大学』

 ああ、なんかお坊ちゃまだらけの大学か。中小企業の高校娘には関係のない大学だ。

 正門の厳重な柵の向こう側にいる人間たちに目をやる。

 ただ立っているだけなのに、キラキラしている。

 ただ歩いているだけなのに、スポットライトがあっているみたいに輝いている。

 ちょっとだけ金持ちな私とは世界がまったく違う。

 眺めているだけなのに。差がわまってしまうなんて。

 私は巾着の中から、一枚のスポーツ新聞の記事の切り抜きを取り出した。

『小山内 駿人 今シーズンも短距離走記録更新‼』

 記事のタイトルを目にして、写真を見た。

 ゴールテープを切る直前の真剣な表情の写真と、お立ち台で喜ぶ姿の写真が隣り合わせになっていた。
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