お見合いに来ないフィアンセ
『今日もいい走りだったよね』
『記録更新とまでいかなかったけど、恰好よかったあ』
『さすが短距離走の王子』


 まわりから女性たちの感嘆の声が耳に入ってくる。

 風をきって走る小山内さんはとても恰好良かった。
 スゴイ人……なんだよなあ。

 天然で危なっかしい人でもあるけど。
 短距離走にいたっては、天才児だ。

『今日は見に来てくれてありがと。送っていくよ。東ゲート入り口で待ってて』
 
 ラインが鳴ったから、開けてみたら……。
 小山内さんからラインが入っていた。

 え? うそ。
 どこ?

 私は立ち上がると、競技場を見渡す。
 ユニフォームからジャージ姿に変わっていた小山内さんが、競技場の隅でスマホを持ってこっちに視線を送っているのがわかった。

 小山内さんと目が合うと、微笑まれる。

 うそ。いつ、気づいたんだろう。

 たくさんの観客がいるのに。
 どうして。
 すごい。

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