ワンルームで御曹司を飼う方法
 
浮気だなんて馬鹿げた心配はしていないけれど、充の帰りが予定よりずいぶん遅くなったことは、私の気持ちをやたらと曇らせた。時計の針がとっくに零時を超えても、ひとりきりのベッドで眠ることなんか出来るはずもないほどに。

結局、もうすぐ二時を迎えるというこんな時間まで起きて、充の帰りを待ってしまった。

――私ってなんていうか……結構心配性? 嫉妬深い?

充以外の男性と付き合ったことのない私は、自分にこんなグラグラした感情があったことに驚く。もっとも、その新発見はちっとも嬉しいものじゃないけれど。

ただいまとおかえりの包容をしながら、私の胸はキュウキュウと痛む。

『どうしてこんなに遅かったの?』

その一言が、聞きたくて聞けない。

日本から、ここカリフォルニアのホテルまで、最新式のプライベートジェットを駆使して約五時間。途中で天候が悪くなったり、給油で何処かに立ち寄ることがあれば、二時間などあっという間に消費してしまう。

疲れて帰ってきた充にそんな愚問を突きつけるのもためらわれて、私は結局口を噤んだまま、そっと抱擁の腕をほどいた。

「どした、あかりん。元気ないぞ」

それなのに人心に聡い彼は、すぐに私の変化に気づいてしまう。

「そう? 眠くなってきちゃったのかも」

「ふーん」

咄嗟に繕った言い訳を、充は当然見抜いているだろう。

けれど彼はクルリと背を向けると片手でネクタイをほどきながら、さも気づいていないかのように軽い口調で言った。

「シャワー浴びてくるな。眠かったら先に寝てな」

こんな気持ちで眠れるはずはないのだけど、私は「うん」とその背に答えて、ひとりで潜るには広すぎるベッドへと戻っていった。
 
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