ワンルームで御曹司を飼う方法

「そんな事はどうでもいいだろ。それより、ほら。お前今イサミ抜きでオーストラリア来たぞ」

 とてもどうでもいいとは思えないけれど。そしてこれは来たと言うより、連れて来られただけのような気がするけれど。

「来たって……社長が強引に連れてきちゃっただけじゃないですか」

「別に問題ないさ、『イサミが一緒じゃなきゃ何処にも行けない』ってのが嘘だって証明出来れば」

 私が生まれてからずっと1番の支えにしていた主張を、社長はソファーに腰を降ろしながら容易く打ち壊す。

 何をするにも躊躇していた時間はなんだったんだろう。『イサミちゃんがいなきゃ無理』って竦んで怯えていた25年間は。

 強引でメチャクチャな手段ではあったけれど。でも確かに、今私はオーストラリアの空にいる。イサミちゃんがいなくても。

…………来れるんだなあ、イサミちゃんと一緒じゃなくても、私。

 何か大きなものが打ち壊れた心はとても軽くて、けれど寂しくて少し不安で。眼下に広がる異国の景色は、まるでそんな胸を満たしてくれるかのように力強く雄大だった。

「よく見とけ。お前のつまんねえ鎖を断ち切ってやった証拠の景色だ。イサミがいなくても、宗根はここまで来れる。どこへでも行ける。お前はやれば出来る子だ」

 昇ってゆく太陽の光に包まれ圧倒的な存在感を放つエアーズロックを目に焼き付けるように眺めていた私に、いつの間にか隣に立っていた社長がそう声を掛けた。

 肩に置かれた手がとても温かく力強く感じる。それは、いずれ数十万人という人間のトップに立つ指導者の手。こんな説得力のある手、きっと他にない。

 自分の中が大きく塗り替えられていくようで胸が詰まって言葉が出なかったけれど、私は静かにしっかりと頷いた。

 オーストラリアの空で見る朝日は、私の25年間の主張と引き換えにしても惜しくないほど眩く美しいと思った。


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