ワンルームで御曹司を飼う方法


「思ったよりキレイだね」

 部屋に入ってグルリと見回した結城社長が発した一言は、やっぱり傍若無人だ。何様だと云う責め句が頭に過ったけど、あそうか、社長さまかと一人で納得してしまった。

 ヅカヅカと上がりこんだ結城社長は部屋の中央まで進むと、再びキョロキョロと周りを見回す。そして、しばらく見回してから不思議そうな顔をした。

「廊下どこ?」

「え?」

「ん?あれ?えっと……ここ?」

「そこ洗面所ですよ。奥がバスとトイレ」

「…………えっと……ああ、そういうものなのか……」

 ものすごく不思議そうな顔をしてから、結城社長は何かに気付いたように独り言を呟いて勝手に何かを納得していた。

「なにか気になる事でもありましたか?」

 社長の様子がひっかかって尋ねた私に、彼は腕を組んで「んー……」と少し考える素振りを見せてから答える。

「珍しい作りの住居だなと思ってさ。なんだかベトナムのホテルに泊まったときを思い出した」

「珍しい?ふつーのワンルームだと思いますけど……」

「へー、なるほどね。ウォールフリーで一部屋にまとめてあるからワンルームか。ああ、まあ……移動はラクかもな、足をケガした時とか便利そうな」

 結城社長のなんとも珍妙なコメントを聞いて、ようやく私は彼が何に感心しているかが分かった。おそらく彼はワンルームなるものを見るのが初めてなのだ。なぜって大金持ちのボンボンだから。

 なんだか不愉快ではあるけれど、それは却って彼が本物の社長である事も裏付けた。日本のあらゆる事業を網羅している結城グループが一族経営なのはわりと有名な話だ。彼が本当に結城食品の【ファストフーズ・キッチン】の社長なら、そのコンツェルン一族の子息……御曹子という事になる。大財閥の子息なら、一般の、しかも低収入な小市民の住宅事情に疎いのも頷ける。

「本当に社長だったんですね」

 変な感心を織り交ぜて溜息と一緒に吐き出した言葉に、結城社長は

「あれ?疑ってた?」

なんて呑気な声を返した。

 とりあえずはまあ、得体の知れない詐欺じゃなくて良かったと僅かに胸を撫で下ろす。けれど、まだまだ安心は出来ない。

 早く電話を返して欲しいなあと思いながら、ひとまず私はお茶を淹れようとキッチンへと向かった。
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