ワンダーランドと春の雪





ちょっとしか話さなかったけど断言できる。

マリーちゃんは良い子だ。


この世界で迷子になって、初めて優しい人に
会った気がする。

まあイズミくんも悪い人じゃないとは思うんだけどね。







階段を上って駅を出ると、緩やかな坂道の
上に大きな門があった。

銅のような色の壁に、パイプや煙突のような
ものが沢山ついてる。

そこを出入りするのは制服姿の生徒らしき
人や、見た目が明らかに人間じゃないような
人たち。

まさか先生だろうか。


門の前にはコウモリのような黒い羽根と
ヤギのようなツノを生やし、片手に槍を持ったいかにも悪魔っぽい見た目の男の子が二人、
門を守るように両端に立っている。

二人とも似たような姿をしてて、違いがあるのは目の形くらいだと思う。


あの二人がマリーちゃんの言ってた
ガーゴイルくんたちかな。





私が門の前まで歩いて行くと、二人は持っていたお互いの槍を交差させた。

そして槍を持ってない方の手を広げ、


「「《学園》へようこそっ!! 」」



と、声を揃えて叫んだのだった。


声も動きも揃ってるから、やっぱり双子かな。

何だかテーマパークに来たみたいだ。





「生徒ではありませんね。
身分が分かるものは持っていますか? 」




猫目の方のガーゴイルくんが私に聞いた。


私はポケットからイズミくんの指輪を出して、
それを彼に差し出した。




「イズミくんの知り合いの人に会いたいん
だけど……」



私の言葉に頷いた彼は、もう一人のつり目の方を呼んだ。



「兄さん、お客様です。ベルフェゴール様と
関わりのある方です」




つり目くんは私の顔をじっと見た。




「こいつが? どう見ても人間の小娘じゃねえか。その指輪本物なのか? 」




つり目なお兄さんの方は、猫目くんより
荒っぽい喋り方だ。


あとベルフェゴールって誰だろう。

イズミくんって言ったはずなんだけど。




そんなことを考えながら二人を見ていると、
つり目の方のガーゴイルくんが私に手招きした。



「ついて来い。案内するから」







つり目くんに案内されて着いたのは、やっぱり複雑な造りの建物の入口。

至る所にパイプや煙突があって、古い建物なのかところどころ錆びている。


つり目くんが近くのレバーを引くとドアが
開き、小さな部屋が現れた。

ボタンみたいなものが並んでるから
エレベーターかな。



つり目くんが乗り込んだので私もそれに続く。



乗り込んだのはいいけど どうしたらいいか
分からずにきょろきょろしていると、
つり目くんが最上階のボタンを押して
エレベーターの内側にあるレバーを引いた。



黒電話のような音が鳴り響き、扉が閉まった
エレベーターは金属が擦れるような音を立てて動き出した。

エレベーターが動くのと一緒にどこからか
蒸気が噴き出すような音も聞こえる。



窓の外に目をやると、上昇していく《学園》の風景が一望できた。

さっきまでいた駅や、入り組んだ商店街の
ような場所。

そこを行き交う人やドラゴンたち。

たまに昔の車のような乗り物に乗った人もいる。

山のように積み重なった古そうな建物には
必ず煙突があって、そこから黒い煙が立ち上っていた。

上の方に行くにつれて、建物が少なくて
比較的綺麗な町並みになっていく。





やがてエレベーターは再び黒電話のような音を鳴らして上昇をやめた。





「着いたぜ。ここが最上階、校長室だ」



「ありがとう」




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