ワンダーランドと春の雪
「改めて自己紹介をしよう。校長のバエルじゃ。よろしく頼む」
バエルと名乗った校長先生に、私は小さくお辞儀をした。
「では本題に入ろうかのう。もう分かっとる
とは思うが、ここは《魔界》という世界じゃ」
「魔界……」
やっぱり、ここは異世界なんだ。
これは夢なのかと思いつつ自分の頬を軽く
つねってみる。
……痛いだけだったけど。
「《学園》に来れば、何かヒントがあるんじゃ
ないかと思って来ました。どうやったら
帰れるんですか、何で私はこの世界に
来ちゃったんですか」
来れたんだから、帰る方法はあるはず。
私の問に、校長先生は四本の腕を組んで
考えるようなポーズをした。
「元の世界に返してやりたいのはやまやま
なんじゃが、今のこの世界の状況だと、
しばらくの間帰るのは難しいかもしれんのう ……それに、《魔界》に人が入り込んだことは、“七大罪”の小僧共も感付いとる頃じゃろう」
「え、しばらくの間って……」
「一週間後かもしれんし、一年かもしれんし、
または百年後かも……」
「百年?! それ人間の平均寿命分かってて
言ってます?! 」
やばいな。
春休みが終わるまでに帰らないとユキちゃんに会えないじゃない。
それは困る。
だって十年も会ってないんだ。
「まさか……魔女狩り、ですか」
私が聞くと、校長先生は頷いた。
「そのとおり。三年前、魔女狩りによって
たくさんの魔法使いが殺された。
《学園》の生徒も例外ではなかった……」
そう言って、悲しそうに目を伏せる校長先生。
生徒ってことは、子供もたくさん死んだのかな。
「嫌な話ですね……」
魔法の国で見つけた変な日記には、悪魔が
魔女狩りを始めたと書いてあった。
その文章と一緒に隠してあったのが、
銀の銃弾とピストル。
ピストルのことを考えたとき、魔法の国で
襲ってきた二人の悪魔のことを思い出して、
何だか頭が痛くなってきた。
そのとき校長先生が四本ある腕のうちの一本の大きな手で私の頭を優しく撫でたのだった。
すると痛みが徐々に消え始めたんだ。
「すまんのう。嫌なことを思い出させてしまったな。さっきも言ったが、ここは安全じゃ。
もとの世界に帰れるようになるまで
《学園》で暮らしなさい」
え。
「それって……」
「力になれなくて申し訳ない限りじゃ。
《学園》の職員一同、お前さんがもとの世界に帰れるよう全力を尽くそう! 」
えっと、話をまとめると……。
この世界で魔女狩りが終わらない限り私は
元の世界には帰れなくて、
帰れるようになるまで、この安全(?)な
《学園》で待てってことか。
イズミくんとの関係とか“七大罪”とか
気になるワードは多いけど……とりあえず、
展開は明るい方向に向かってるのかな?
私は涙が出そうになるのを何とかこらえ、
校長先生に向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございます! 」