ワンダーランドと春の雪




私たちがくだらないことを話しながら歩いてきた通路は、《学園》から遠く離れた砂漠の
高台に通じていたのだった。


夜といっても、月や星が輝いており
あまり暗くない。






また皆で砂漠をしばらく歩いていくと
小さな龍が五頭、翼を折り曲げて座っていた。


小さいと言っても人が一人乗れるほどの大きさで、深緑色の鱗が月明かりを受けてきらきら
光っている。

龍というよりドラゴンだ。





「ミライ、龍に乗るのは初めてよね。
そこのツノを持ったら安全だから」



ジュリーちゃんはそう言って

私を龍の上に乗せてくれる。



待って、まさか一人で乗るの?!




「いやー龍は久し振りに乗るなあ!よかったら
マリー、いっしょにどう?」


「リルガくんなんかといっしょに乗るくらいなら転落死した方がマシかもね~」




そんなやり取りをしながら

二人はさっさと龍にまたがって大空へ飛び立ってしまった。



ミレアくんも何かぶつぶつ言いながら龍に
足をかけているところだった。




「くそ……あいつらは怖くねえのかよ。
落ちたらどうすんだよ……」



「え、ミレアくんってまさか高所恐怖症?」




私が冗談ぽく聞くと

ミレアくんはかなり真剣な顔で頷いた。





「暗いとこも駄目だし虫も嫌いだし、
ちなみに俺バンパイアだけど血を見るのも
無理なんだ」



「血を見るのも無理って、あなたはいつも
どうやって生きてるの?」



「血は月に一回しか飲んでない。きもいから」




ミレアくんはそう言って龍にまたがった。


その瞬間

彼の顔から血の気が引いていくのが見えた。



龍が翼を広げて空に舞い上がるときには

ミレアくんの顔は真っ青だった。
そんなに怖いんだね。



そのとき龍が突然 上昇した。




「大丈夫大丈夫大丈夫だいじょう……ぶ
ヒエアアアアアアアエアアアア?!?!?!」




ミレアくんの悲鳴がだんだん小さくなっていく。

暗いのも高いのもゾンビも怖いのに
友達を助けたいがために龍に乗る彼に
敬礼したい。

あと悲鳴が女子みたいだった。

そんなに声が低くないというのもあるけど。



空の遥か上の方から

リルガくんの笑い声が聞こえる。


きっとミレアくんを笑ってるのだろう。




「あたしたちも行きましょうか」



ジュリーちゃんの声に頷いて

私は龍の頭から生えている二本のツノに
手を掛けた。



すると龍は翼を広げ

空高く舞い上がったのだった。



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