届屋ぎんかの怪異譚



そういえば、狐は最後にそんなことを言っていた。

今更のように思い出した朔と猫目だが、それがいったいどうしたというのか、二人ともわからない。



背を向けた銀花は紺青の空を見上げる。

その視線の先には、つい先ほど薄い雲から顔を出した満月が、愁銀に輝く。



「朔……」



銀花が言って、一歩、二歩、朔から離れていく。

そして、ゆっくりと振り向いた。



「あたしを、斬る?」



朔と猫目が、同時に息を呑む。



「おまえ……!」

「ぎん、か……?」


振り返って顔を上げた銀花の瞳が、銀に輝いていた。


それは淡く光を放ち、夜の闇に浮かび上がる。


――まるで、月のように。



< 122 / 304 >

この作品をシェア

pagetop