届屋ぎんかの怪異譚



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もう通い慣れたはずの暗い通路が、初めて通ったときよりもずっと長く感じられた。



いつもの地下道を通って萩のもとへたどり着いたときには、銀花は冬だというのに額にうっすらと汗をかいていた。



「よく来たのう、銀花、玉響」



いつものように、妖艶な笑みを浮かべて萩は言う。


けれどその目に、悲しみの色が宿っているのを銀花は見逃さなかった。



「萩、あたしが何をしに来たのか、もう知っているでしょう?」


「……もちろんじゃ」



ただ静かな、波紋ひとつない水面のように静かな瞳でじっとこちらを見つめる萩は、どうしてだかまったく知らない人のように、銀花には見えた。



「わらわはのう、一度見た人の心、人の記憶を、夢としてそっくりそのまま他の者に見せることができる。

さとりの妖力と、玉響の妖術とを合わせて作り出した、一種の幻術じゃ」



たいして時間はかからぬ、と、萩は言う。



「銀花さえ良ければ、いつでも始められるが、どうする?」



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