届屋ぎんかの怪異譚
「行くって、どこへ」
「決まってるでしょ。萱村の屋敷よ」
「だから、おまえを連れては行けないと……」
「連れてってなんて頼んでないわ」
抵抗する朔を睨んで、銀花はぴしゃりと言い放つ。
「あたしは白檀さんに会って話をしたいの。あたしが勝手に行くの。朔も来るなら勝手について来ればいい。それだけのことよ」
萩のもとで山吹と月詠の夢を見てから、ずっと決めていたことだ。
――白檀に、会いに行く。
朔が止めたって、関係ない。
「どうしてもあたしと一緒に行くのが嫌だって言うなら、べつにかまわないわ。あたしは風伯に頼んで一足先に行ってるから。後からゆっくり来るといいわ」
実際にそんなことをすればどうなるか、銀花にも、もちろんわかる。
いくら風伯がついていようと、晦の強さは実際に目にあたりにした通りだし、白檀は妖術の類を扱う。
二人の目的はおそらく朔である以上、銀花の運命は十中八九、人質だろう。