届屋ぎんかの怪異譚



「糺さん、どうしてこんなところに?」



糺の息が整うのを待って、銀花は尋ねた。



「火の見櫓(やぐら)の番人が、江戸の外で青い火柱が昇るんを見たって、


えれー慌てて知らせてきたもんだから、何があったのかと思ってなあ」



銀花ちゃん、なんか見たかい、と尋ねる糺に、銀花は苦笑いを浮かべて首を横に振った。



「なんにも。でも、糺さんが来てくれてよかった。ちょうど難儀していたの」



糺もずっと気になっていたのだろう。


銀花が言うと、糺は「この兄ちゃんのことかい?」と、倒れた青年を指差した。



糺は銀花の家の向かいにある長屋の大家で、銀花とは子供の頃からの付き合いだった。


銀花にとっては兄のような存在で、天涯孤独の銀花を心配して、いつも気にかけてくれている。



三十はとうに過ぎてると言うが、童顔な男で二十も始めに見える。


そのことを本人はいたく気にしているが、銀花にとっては年の近く見える方が本当の兄のようで嬉しかったりする。



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