届屋ぎんかの怪異譚



神狐は風伯と同じで、妖というよりも神や精霊の部類に入る。


神は人々の願いによって生まれ、人々に忘れ去られれば消えてしまう。



古くて小さな社に祀られたあの神狐は、きっと、消えてしまうのが怖かったのだ。


だから、唯一自分を大切に祀ってくれていた老婆が来なくなったことで、不安になった。



この江戸の町で、生きた神のいる「生きた社」は意外と珍しい。


この時勢、神を心から信じ祀る者はあまりいないのだ。



「小さいけれど、せっかく生きた社があるんだから、壊さないでいてほしいね」



眼下に流れる薄闇を眺めながら、銀花はしみじみと言った。


その薄闇の中にはいくつもの人の営みがあって、いくつもの妖の営みがある。



< 82 / 304 >

この作品をシェア

pagetop