届屋ぎんかの怪異譚



「どうもなぁ、萱村の鬼の仕業だって噂が出回ってんだ」



と、糺が言う。すると、ずっと黙っていた朔が箸を止めて顔を上げた。



「萱村……?」



「あ、朔はもしかして、そんとき江戸にいなかったか? 十年くれぇ前に、江戸で萱村事件ってのがあってなぁ」



そらぁ痛ましい事件だった、と、わずかに表情を曇らせて、糺は萱村事件について語った。



昔、江戸で力ある武家の中に、萱村という家があった。

萱村の家はながらく幕府に重用されず落ち目にあったが、

十五、六年前、当時の当主である萱村秀栄(しゅうえい)が鬼退治に成功して再び重用された。


秀栄の当時三つになる長男はその幼さにして才気煥発。

萱村の未来は明るいものと思われた。



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