自惚れ男子の取説書【完】
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空調で完全管理された少し息苦しい空間。それでも、患者さんに不安を与えまいとしてるのか、大きな窓からはたっぷりの日差しが廊下へと差し込んでいる。

扉を開け、ふぅ…と息を吐く。静かな風を感じながら、私は院内では数少ない渡り廊下を歩いていた。ガラゴロと押し歩く台車は荷物をすべておろし、片手で十分な程軽い。

今日の仕事はフリーの役回りでみんなのサポート係。患者さんを個人的に担当する事はなく、検査へ付き添ったり入浴の介助をしたり。今も病棟をうつる患者さんに付き添い、引き継いできた帰りだ。

患者さんと密に接するのは好きだけど、たまにはこうして色んな患者さんとゆったり関わるのも良い。

残った仕事もほとんどない。引き継ぎ間近、オレンジ色の空を味わうようにゆっくりと廊下を進んだ。
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