フォンダンショコラなふたり 


いつもなら気楽なカウンターに座るのに、報告というのは込み入った話になるのか個室が用意されていた。

佐倉の身に何事か起こったのだろうかと気になりながらも、表面は軽くふるまった。



「相変わらず大漁だな。どれも高そうだ、さぞ旨いんだろうな」


「さぁ、俺は食べないからわからないよ」



佐倉の手元を覗き込むと、見るからに高級なチョコレートが段になって入っていた。

義理ではないのは箱の大きさから一目で、たとえ義理であっても佐倉には特別な物が配られているのではないかとすねたくなる立派なものばかりだ。

チョコレートが主流だが、ケーキや焼き菓子も増えてきたなと最近の傾向にも詳しい佐倉は、自分では食べなくても、もらったものをちゃんと把握している証拠だ。



「甘いのが苦手な男に、よくもこんな甘そうなのを寄こすよな。

これ、どうするんだ? まさか全部廃棄か」


「もらったものだ、そんなことはしない。

食べてくれる人がいるから、その人にあげてるよ」



必ずカードや手紙が入っているため、全部に目を通してカード類を抜いてから人にあげるのだという。

どんなメッセージが書かれているのかと聞くと、彼女たちの真剣な気持ちだから、簡単に口にはできないと真顔で返された。

低レベルな質問をしたものだと反省しながらも、いかにもな顔で取り繕った。



「そうだよな、もらったものを粗末にできないよな。

男でも甘党はいるからよかったな、そんな人がいて。会社の同僚か?」


「同僚だが、男じゃないよ」


「男じゃないって、佐倉、彼女がいたのか」


「まだいない」



会社で背中合わせに座っている甘党の彼女が、佐倉のチョコレートを毎年ひそかに引き取ってくれた。

以前からその子に好意があった佐倉は、バレンタインデーの今日、菓子に添えたカードで告白した……

というのが、ここに呼んで俺に報告したかったことらしい。



「で、彼女の反応はどうだった」


「返事はホワイトデーかな。一ヶ月待つのはしんどいけどな」



しんどそうには見えない顔からすると、手ごたえがあったのだろう。

嬉しそうに口元を緩ませて語る佐倉を初めてみた。

コイツもこんな顔をするのか……

佐倉の顔を面白そうに見ていると、照れ隠しだろうか、フォンダンショコラという菓子を知っているかと聞かれた。

知らないというと、



「外は普通のケーキ生地で、中にチョコレートが入ってる。意外性があるケーキらしい」


「へぇ、うまそうじゃないか」


「おまえみたいだな」


「うん?」


「見た目と中身が違うだろう」


「はぁ?」 


「玲音のそのギャップがいいんだよな。しっかし、女の子の目はどこを見てるんだろう。

誰も気が付かないのか? うん? どうなんだよ」


「知るか」



からかわれたとわかってはいるが、俺で遊ぶなと不機嫌そうに言い返し、まだ何も運ばれておらずテーブルに唯一おかれたコップの水を一気にあおった。



「玲音のも、すごいじゃないか」



今度は俺が抱えてきた袋を佐倉がのぞく。

数だけは負けないよと言ったものの、佐倉に比べて見劣りがするのは致し方ない。



「義理ばっかりだけどな」



以前は、もらったものだからと自分で食べていた。

佐倉のように甘いものが苦手ではないが、似たような甘ったるいチョコばかりで飽きて、最近では姉貴のところの姪っ子に、もらったまんま全部譲っている。


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