僕は、先生に恋をした
僕は、先生に恋をした⑨

朝 橘家


はるかは仏壇の前にいた

手には書類が二枚
握られている

そして

薬指の結婚指輪を
そっと外す

――――――――――

居間にいる義父と義母に
はるかが話しかける

はるか『お義父さん、お義母さん』

はるかの方を向く二人


はるか『これ…提出してきます』

二人の前に復氏届を差し出す

その表情から
はるかの決意を察する二人


義父『…そうか…うん、わかった』

義父の隣で
寂しそうな表情の義母


はるか『それから…
    こっちなんですけど』

そう言って
もう一枚の書類

姻族関係終了届を差し出す

白紙だ


それを見て、驚く義父と義母

義父『はるかさん…これは…?』

はるか『これは、提出しません』

義母『はるかさん…』


はるか『私と悠人にとって
    お義父さんとお義母さん…
    そして雅紀さんはこれからもずっと
    変わらない家族です

    縁を切るなんて出来ません

    だから…
    私には書けませんでした』


はるかの言葉に
涙を浮かべて頷く義母

義父『はるかさんは…それでいいんだね?』

はるか『はい』


義父『…ありがとう』

――――――――――

学校


今日が今年最後の授業

明日からは
楽しい冬休みのはずだが

それぞれ複雑な気持ちを抱いていた


はるかと潤平の関係を暴露してしまった夏美

そんな夏美の暴露によって
二人の関係を知ってしまったタクミ

夏美とタクミにはるかの真相を話してしまった洋介

そして

はるかと話しが出来ていない状態のままの潤平


そんな彼らの前に立ち

平然を装いいつもと同じように
授業をしているはるか


はるか『皆さん
    明日から冬休みですね

    遊びやバイトもいいですが
    宿題もたくさんあるので
    忘れずにやってくださいね』

『えー』

不服そうな生徒たち
それを笑顔で返すはるか


はるか『それから

    私にとっても…
    今日が皆さんと会う、最後の日になります』


はるかの言葉に
驚いて顔を上げる潤平

洋介たちも驚いている

ざわつく教室

はるか『突然ですが
    一身上の都合により
    新潟の実家に帰ることになりました

    来年から皆さんは三年生ですね

    皆さんの卒業を見届けることが出来なくて
    本当にごめんなさい

    クラス全員が揃って卒業出来る事を
    陰ながら祈っています
    短い間でしたが、皆さんの担任になれて
    本当に嬉しかったです』


そう言うと
前に座る生徒たちに

深く頭を下げるはるか

言葉を失う生徒たち

静まり返る教室


その時
チャイムが鳴った

はるか『では、これで授業を終わります』

そう言って
笑顔を作りはるかが教室を後にする


はるかが去ると
生徒たちがざわざわし出す

『先生マジでやめちゃうの?』
『指輪してなくなかった?』
『離婚したのかな…』


動揺する夏美

洋介が心配そうに
潤平の方を見る

タクミ『潤平、お前このこと知って…』

潤平の隣に座るタクミが
声をかけようとした

次の瞬間

突然席を立って
教室を飛び出す潤平


廊下を歩いているはるかを追いかけ
はるかの腕を掴み

そのままはるかの手を引いて
誰もいない図書室に連れ込む潤平

そして

はるかの両肩を掴んで言う

潤平『先生、どういうこと?』

強い口調で言う潤平

はるか『色々考えて、決めたことだから…』

潤平『なにそれ…
   
   俺には何の相談もしてくれないの?
   俺ってそんな存在?』


はるか『…ごめんなさい』


潤平と目を合わさず
下を向いたままそう言うと

肩を掴んでいた
潤平の手を、そっとどけて

図書室を出るはるか

      
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