冷たい彼-初恋が終わるとき-
「…きゅ、急に呼び出してごめんなさい。私、小田切君に言いたいことがあるの」
屋上に吹き込む風が髪を靡かせた。
風が頬を冷やす。
「…き、聞いて、くれる?」
「うん、勿論」
とくとくと心臓の鼓動が早まる。
私は小さく拳を握り、真っ向から小田切君を見つめた。
私が何を言おうとしてるか、薄々は気付いてるはずだ。
でも口籠る私を急かさない。
言うのを待ってくれている。
その優しい目が、恋しくて。
愛おしくて。
ずっと見てきた。
「…あの…っ」
本当は怖いよ、泣きたいよ、助けて欲しい。
「…わ、たし…」
でも、言わなきゃダメなんだ。この不安定な感情と立場を、私が終わらせないと。
そうしなければ、始まらない。何も、変わらない。変われない。
一度目を閉ざし、ゆっくりと瞼を開けてから、改め直す。
じっと静かに、切り出すのを待ってくれている小田切君を見据える。なけなしの勇気を振り絞って、唇を動かした。
さようなら、臆病だった私。
「…私、小田切君が好きでした」
一際強く風が吹く。
冷たい風が一陣、私達の間をすり抜けて行った。
「…ずっと、見てきたの。小田切君だけを。ずっと、ずっと、好きでした」
靡く髪が、僅かに視線を遮る。
その僅かな時間すらも、私は永遠のように思えた。