冷たい彼-初恋が終わるとき-
「ーーでも嬉しいよ、ありがとう、椎名さん」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
心臓が動きを強める。
「…い、今、私の名前…」
「椎名さんでしょ?知ってるよ」
夢にまで、見た。
彼と話せたらいいなって。
その淡褐色の瞳に映りたいって。
やっと彼の瞳に映れるようになった私は、血色の悪い唇を震わせていた。
「…どうして…」
「だっていつも応援来てくれてたよね?」
さも当然のように言う小田切君に私は目を瞠る。
「体育館の見学スペースには入ってこないのに、ずっと外から見てくれてたから、覚えてる。寒い日も、暑い日も、ずっと、応援してくれてた」
「 …っ」
「本当にお礼を言わないといけないのは俺だよ、ありがとう」
「…違っ、私が勝手に見てただけで…っ」
「あれほど純粋に俺のバスケを見てくれる子なんていないから、嬉しかったんだ」
照れ臭そうに笑う小田切君。
ジワリジワリと瞼が熱くなる。震える唇を噛み締めて、喉の奥から込み上げてくるものに堪える。
私が彼を見ていたように。
彼も私を見つけてくれていたなんて。
ーー早く、気づけば良かった。