ボーダー・ライン

そうだよ、僕はさっきラジオ体操を皆と一緒に行ったじゃないか。
仕事とプライベートは別なんだ。

それが「オトナ」という存在である、有識者だってコラムにしている。
ああ、もちろん僕だって全くもってその通りだと思っているさ。



だけど……それでも彼女は。

『死にたい』

僕の心の中で、再度サトミの暴走が再発した。

全く寝られなかった昨晩のように、意思に反し僕の中で目覚めた彼女の言葉は、再度心の内ではしゃぎ廻る。

どうしてだ、
「やめてくれよ、な、サトミ?」
せっかく心の内にしまっておいたのに。

『死にたい』

僕が渡辺さんの死に触れたことで、彼女は目覚めてしまったのだろうか。


『死にたい』

『恐い』

『……壊れちゃう!』

言葉だけになったサトミの化身は、まるで真っ白な顔をした死に神のように、僕の心を掻き乱した。



……やめろ。
やめてくれ。
僕の周りで、皆勝手に死んでいくなよ。


何でそんな簡単に人は死ぬのですか、神様?
僕には全く、理解できない。


それってもしかして、理解できない僕の方が変なんですか?

僕は皆さんから見たら、人のあたたかみがない冷徹な人間なんですか?

……あの係長のように。


渡辺さん、ごめんなさい。
僕は苦しんでいたあなたを、さらに追い詰めてしまった……。

サトミ、ごめん。
僕は君の前から逃げ出した……。


死に逝く人を追い込み、逃げ出し、見捨てる、僕という男は本当に「人間」なのでしょうか?


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