噎せかえる程に甘いその香りは

彼の言わんとしている事を察して私は視線を彷徨わせた。

前回貰った香水はもう使い果たしてしまった。

そしてこの間貰ったばかりだというのに、あの香水はもう―――…


「ご、ごめん、なさい…。私、折角頂いたのに不注意で瓶を割ってしまって、あの…」


葵さんとの事も胸に痛いけれど、副社長には私が無理言って強請った物なのだから、彼にも申し訳ない。

悄然と俯く私の頭上にくすっと笑声が落ちた。

恐る恐ると顔を上げれば、副社長は少し愉快そうに目元を緩めていて、ぽんぽんと子供をあやすように私の頭を撫でた。


「仄はホントに可愛いな。そんな事でそんなに落ち込んでたのか。気にしなくてイイ。香水ぐらい直ぐに用意してあげるから。」


機嫌を損ねなかったのは良かったけれど……

彼の温情溢れる言葉はぎゅっと私の心臓を捻り潰した。




あの香水を手に入れても私はもう―――付けられない。

彼にもう要らないと言われた私は…香澄さんの替わりになれない私は…



もうあの香水を付ける訳にはいかないんだ。



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