噎せかえる程に甘いその香りは

午後も三時を回った所。

トラブルの所為で後回しになった仕事がデスクを席巻している。

彼女にメールで会いたいと伝えてもきっと応えてはくれない。
ばかりか、用心して逃げられるかもしれない。

だったら終業直後を見計らって彼女を捕まえた方が確実だ。


定時で上がる為に俺はデスク上の仕事をとりあえず“マジでヤバイ”ってヤツとそうじゃないヤツに分けて、ヤバい方だけせっせと片付けて行った。

ああ。気が急く。

内心半泣きになりながら鬼のようにキーボードを叩いていた俺は、不図顔を上げた。

たった今外回りから帰ってきただろう部下達がいやに盛り上がってる。


「どうかしたか?」


俺の問いに部下の一人が「それがですネ!」と少し興奮気味に捲し立てた。


「俺達たった今外から帰ってきたんですけど、一階ロビーで見かけたんですよ!菊池雛子さん!」

「水守さんが呼びだされたみたいですよ!」


…………………………なんだって!?


「えーあの噂本当だったんだぁー」
「とうとう本妻が乗り込んで来やがったか」
「修羅場だ修羅場」

俺はそんな勝手な事を言って盛り上がるヤツ等を置き去りに、事務所から飛び出した。






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