ホワイトデー最終決戦
校舎の二階は大半が部活に行ってしまったのか静まっていた。
そんな中、教室からは話し声が聞こえる。まだ誰か残っているらしい。
と、扉に手をかけたところで俺は息を潜めた。
そこにいたのが、和歌と春香だったからだ。
「だから、私の事はもう気にしなくていいんだって」
「和歌」
「もうねー。克司のことなんて好きじゃないから大丈夫。だから学校でも気にしないで克司と仲良くして?」
にへへ、と笑って見せる和歌。
ばっ、お前何言ってんだよ。
お前この間俺に弱音吐いたばっかりじゃねぇかよ。
思わず代弁してやりたい気持ちにかられつつ、そんなわけにもいかないかと、無言で耳をそばだてる。
聞こえてくるのは、聞き取れないほど小さな、春香の泣きそうな声だ。
「うん。……わかってる、けど、ホントにごめんね。和歌」
「いいよぉ。仲良くしててくれたほうが私も気楽っての? ね? 克司のこと大事にしてやってよ!」
「……和歌ぁ」
対する和歌の声はまるで弾むように元気で。
本心を知っているだけに、俺には痛々しく響く。
平気じゃないだろ。気楽じゃないだろ。
まだ克司の事が好きなくせに。失恋の傷は癒えてなんかいないくせに。
それなのに、克司が幸せになるようにお前は願うのか。
そんなに克司の事が、好きなのかよ。
ああもう我慢できない。
そんな和歌を黙ってみていられるほど、俺の気持ちだって軽くない。
どんなことしてもいいから守りたいって思うくらい好きなんだ。