気紛れカフェ
1杯目 ブラックコーヒー
「…また振られた」

ケータイを片手に肩を落とした
上京したのは大学生の時、その後念願のラジオ局に就職して3年目
今年からやっとパーソナリティとして番組を任されることになった
その矢先のことだ
3ヶ月付き合った彼に振られた
もともと恋愛が苦手で長続きしない
持って一年ちょっとが限界だった
もう私には仕事しか残っていない
…なんと悲しき人生かな
一人頭を垂れて歩いていると、ふと足が止まった

「ここ、カフェだったっけ?」

アンティークチックな外観のカフェに明かりが灯っていた
今まで明かりが灯っていたことなんてあったかな?と不思議に思いつつも、足は自然とそのカフェの扉へと向かっていた


カランカラン


「いらっしゃい」

顔立ちの整った男の人が1人、カウンターに立っていた
中には彼以外誰もおらず、貸し切りみたいだ
彼はトントンと指で自分の前のカウンターを叩いた

「ここ、どうぞ」

私はこくりと頷いて椅子に腰掛けた

「丁度話し相手が欲しかったんです、はじめましてこの店のマスターです」

彼は嬉しそうに笑った

「は、はじめまして、素敵なお店…ですね」

「ありがとうございます、何か飲まれますか?」

「あ、じゃぁ、ブラックコーヒーを…」

彼は「おまかせを」と笑ってコーヒーを淹れ始めた
白くて綺麗な指が目に止まる
いくつくらいなんだろう…

「お客さん、お名前は?」

「え、あざみ…山村あざみです」

「あざみさんか、僕は野坂隆、常連さんは隆さんとかマスターって呼びます」

「隆…さん、よろしくお願いします」

隆さんは頷いてから淹れたてのコーヒーを出してくれた
コーヒーと共にクッキーが出てきた

「これ、良かったらどうぞ、ブラックコーヒーによく合うんです」

「ありがとうございます!」

私はコーヒーを一口飲むとクッキーも口に放り込んだ
苦いコーヒーと甘めのクッキーが丁度いい

「すごく美味しいです!」

隆さんはにこにこしながらカップを拭いていた
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