僕が彼女にチョコを貰えなかった理由
若干震える手でチャイムを押すと、すぐに返事が聞こえて中から春香が出て来た。


俺の顔を見て驚く春香。


中に通されると、テーブルの上にはワインレッドの包みが置いてあった。



俺の視線に気づいて明らかに動揺する春香。


友達から貰ったと言っているが、アレが春香が作ったモノに間違いないだろう。


バレンタインを過ぎて、まだ春香が持っているという事は、相手に渡せなかったと言う事だ。


その事実に嬉しくなる自分の女々しさが嫌になる。



飲み物を入れて戻って来た春香にワインレッドの包みを渡す。


自分の気持ちは押し殺して。


春香の幸せを願って。


俺は今まで十分幸せだったから。


どうか春香の想いが相手に届きます様に。



すると、春香は俺から包みを受け取り、そしてもう一度俺の前に差し出した。



驚く俺に春香は言った。



「そうだよ、他に誰に渡すの?」



クスクス笑う春香。



龍人は春香を抱きしめた。



ギュッと抱きしめると、腕の中の春香はちょっと苦しそうだったけど、放すことは出来なかった。



「誰のだと思ったの?」



抱きしめ返してくれながら聞く春香に体が熱くなる。



「わかんない・・・・わかんないけど、俺じゃないと思ってた。」



俺がそう言うと、春香は



「龍人しかいませんよ。」


と言った。



その言葉に、昨日から抱いていた不安も、黒い感情もすべてが洗い流される。



結局、春香が俺にチョコをくれなかったのは、家がケーキ屋の俺にどんなチョコをあげても喜ばない気がしたからだと言った。



春香は何も分かっていない。



君がくれるのなら、どんなものでもかまわないのに。


それでもちょっと意地悪したくなった俺は、春香にブラウニーを食べさせてもらった。


春香が恥ずかしがるのを見ながら食べるそれは、今まで食べたどんなものより甘くて美味しかった。





おわり
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