大嫌いなアイツの彼女になりました。








「……散歩でも行こうかな」

 ふとそう思って、窓の外を見た。


 陽の光が眩しく照らしている道路には陽炎が見えるし、歩いている人たちも汗だくだから、かなり暑いんだろう。


 そりゃあそうだ。


 夏の終わりと言っても、今日は最高温度36度の猛暑日。

 家の中も扇風機だけじゃ足りないけれど、お母さんに「クーラー使ったら罰金千円だからね!」と言われているため、クーラーはあたしを誘惑するだけの使えない家電になってしまったのだ。


 お母さんいわく、夏休みでずっと家にいるあたしが昼間クーラーをつけたら電気代が高くつくから……らしい。

 それに、他にも人がいればいいけど、両親は共働きであたしは一人っ子のためもったいないとも言っていた気がする。


 バイトもしているし、あたしだって一日中家にいるわけじゃないのに。

 でも、お母さんの言っていることに反論できるほど正当な理由がないあたしは、言うことを聞くしかなかったのだ。



 けれど、ずっと家でいたってあのキスのことばかり考えちゃうから。


「よしっ」

 あたしは気合を入れると、携帯を持って部屋を走り出て行く。

 勢いよく階段を降りると、玄関まで再び走る。




 そして玄関で靴を履いた時、ドキッとした。

 だって何気なく履いた靴は、あの日、望月相馬に買ってもらったクロックスだったから。



「…………。」

 あたしは足元を見たまま固まる。


 確か靴擦れしたあたしを望月相馬は心配してくれて、この靴を買ってくれたんだっけ。

 そしてその日、あたしは望月相馬に……


 あたしの頭に浮かんできたのはキスシーン。

 唇があの感触と温かさをまた思い出す。


< 39 / 203 >

この作品をシェア

pagetop