チョコレート・サプライズ【短】
「ばっ……!そういう意味じゃねぇからな!」


怒鳴った店長に首を傾げれば、彼は顔を逸らしてしまった。


「俺はお前の就職の事を気にしてやってるだけで!」


「はい、わかってます」


力強く頷きながら店長に熱い眼差しを向ければ、彼はゆっくりと顔を戻した。


「私、店長には嫌われてると思ってたんですけど、店長がそんなに私の就職の事を心配してくれてたなんて……」


「は?」


「今まで店長の事を誤解してました。横暴な人だと思ってましたけど、本当は優しい人だったんですね!」


満面の笑みを浮かべた私を見つめながら店長が「そんな風に思ってたのか」と呟いたような気がしたけど、ようやく就職先が決まりそうな私の心はすっかり浮かれてしまっていて、気にも留めていない。


「バカっつーか、鈍いっつーか……」


「はい?」


そのせいで、ため息混じりに零された言葉をきちんと聞き取れなくて首を傾げると、店長はこれ以上無い程に深いため息を落とした。


「チーフになるんだから、死ぬ気で働けよ」


「もちろんです!私、ここが大好きなんで!」


このお店のメニューも雰囲気も好きだし、実はオープンした時からのファンなのだ。


だから、就職浪人が決まった時には真っ先にここでアルバイトしたいと思ったし、運良く求人していた上に条件も良かったから本当に嬉しかった。


お客として通っていた時とは随分と態度の違う店長にはすぐに苦手意識が芽生えたけど、そんな気持ちはこの僅かな時間の出来事が払拭してくれそうな気がする。


「あー、先が思いやられる」


「私、今まで以上に頑張りますって!」


「そうじゃねぇよ。……あぁ、もういい。何も言うな」


店長は左手で頭を抱えるように項垂れ、ようやくドアを開けて冬の夜空の下に足を踏み出したーー…。


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