ショータロー☆コンプレックス
ショータロー☆コンプレックス
いよいよ決戦の火蓋が、切って落とされたぞ。


無事にバイトを終えたあと、帰り支度をしながら、オレは心の中で自分に気合いを入れた。


テンションは最高潮。


ちなみにバイトというのは不定期に入って来る、映画やドラマのエキストラのお仕事。


ほんの数秒、しかも場合によっては米粒ほどの大きさでの出演にも関わらず、拘束時間は無駄に長く、それでいてギャラは雀の涙。


そんな待遇に不満が全くないと言ったら嘘になるけれど、俳優志望の自分にとってはどさくさ紛れに今をときめく売れっ子タレント達と一緒の画面に映り込めるのはこの上なくラッキーな事だし、業界とのコネクションを確保する意味でも無下にはできない美味しい仕事であった。


そもそも、主要人物を取り囲むモブだって、ストーリーを成り立たせるのになくてはならない大切な存在なんだから。


呼んでもらえるだけでもありがたいと自分に言い聞かせ、所属している劇団経由で声がかかった際には二つ返事で了承し、現場に馳せ参じている。


今日も全力投球で『刑事が聞き込みに行った先の喫茶店のカウンター席で文庫本を読みながら静かにコーヒーを啜る青年』という大役をこなした。


ただ、オレにとっては実はこの後の行動の方が重要で、気持ちを奮い立たせる必要があったのだけれど。
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