僕と、君と、鉄屑と。
 しかし、麗子は、今までの『候補者』とは違っていた。
「ふざけんな! てめえ、何様だよ!」
社長の手を払いのけ、ツバを吐きかけた。こんな、こんな女……初めて見た……僕は、正直、焦った。こんな展開は、予想できていなかった。
「社長、もう、この女は……」
社長は、僕の差し出したハンカチで、胸元にかかった、汚らわしいツバを拭い、笑い出した。
「申し訳ありません」
僕の言葉に、社長はふっと笑い、麗子に向き、優しく言った。
「手荒な真似をして、悪かった。もういいよ。村井、送って差し上げろ」
「はい、社長」
「これは、車代だ」
財布から三万を出し、麗子の痩せた胸元にねじ込んで、席を立った。社長は少し俯いて、麗子の横を通り過ぎようとした。

「……ねえ、あんたさ」
「何だ」
「カノジョ、いないの?」
「残念ながら」
「どうして? そんなにイケてんのに、モテんでしょ?」
「女は、仕事の邪魔でしかない」
麗子は社長の顔をじっと見て、言った。
「タイプ、なんだよね」
「それはどうも」
「……いいよ、契約、してあげる」
そう言って、麗子はソファに座って、札束を六つ、カバンに入れた。
「賢明な判断だ。後のことは、村井に聞け。村井の命令は、俺の命令だ。いいな?」
「わかった」
社長は、僕に頷いて、部屋を出て行った。
「村井祐輔と申します。何かあれば、私になんなりと」
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