【短編】七夕奇譚

「2F」



水のあとを追って、私は病院南側の二階への階段をゆっくりと昇った。


だが、もうすでに液体の痕跡はほとんど確認出来なくなってきている。


でも、それで充分だった。何故なら、最後の痕跡が向いていた先が………。


「207号室………。」


そう、亡くなった田町さんの病室だった部屋だ。


私は、足音をなるべく殺して、その部屋に近づく。


月が雲に隠れているせいか、明かりは消火栓の赤い光と、非常階段を示す緑の光だけだった。ポケットに懐中電灯はあるのだが、何故かつける気にはならなかった。


やがて、私は207号室の前に立った。


(死人は歩いたりはしない…………!)


そう自分に言い聞かせ、汗に濡れた手のひらでドアノブをつかむ………。






─────その時─────。







………ふぉぉぉぉぉ。




………ふぉぉぉぉぉ。


何とも言い難い不気味な音が、部屋の中から聞こえてきたのだった。


私は、電気でも流されたように、「ビクッ」とドアノブから手を離した。


────何か、いる────!


私の思考回路が、そう告げていた。






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