*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「シィ君……ユカリちゃんが……」


「ユウ?」


「うん。今、すごく辛いことがあって……めちゃくちゃ落ち込んでるねん……。それで……。はぁ……はぁ……」


シィ君はじっと次の言葉を待ってくれてる。

この期に及んでも、わたしの中にもまだ迷いがある。

言葉にすれば、もうこれで完全に終わってしまうかもしれない。

『言いたくない』……ってそんな気持ちもある。

だけど……。


その時、フッとユカリちゃんの泣き顔が頭に浮かんだ。



「なぐさめてあげて?……ユカリちゃん、出て行ったとこやから。今なら間に合う……。追いかけてあげて!」


「オレが? オレはアイツになんもしてやれへんよ」


「違うよ! シィ君にしかできへん! シィ君はユカリちゃんのスーパーマンやねん! だからそばにいてあげて!」


もう、わけわかんないこと言ってる。

でも、伝わって……。

お願い。


「シィ君! 行って!」


わたしはシィ君の背後に回って背中を押した。


「ちぃちゃん……」


シィ君はわたしを振り返った。

雪はどんどん激しくなって、彼の髪や肩に降りかかる。

こんな時なのに、わたしの好きなその真っ黒の髪に触れたいなんて思ってしまう自分がいた。


そんな気持ちをかき消すように、さらに強く彼の背中を押した。


「早く! それから………ちゃんとシィ君の気持ち、ユカリちゃんに伝えてあげて!」


シィ君はしばらく考え込んでいて、それから何かを決意したような顔をわたしに向けた。


「ありがと。ちぃちゃん……」


そして前を向いて走りだした。
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