*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
だけど、息を切らせてやって来た彼女の姿を見た瞬間、そんな考えは消え去ってしまった。


消し子ちゃんは、耳まで真っ赤にして、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見て突っ立っていた。


まるで飼い主に怒られた子犬みたいだな。



「ひょっとして………これ、落とした?」


オレは得意の王子スマイルで尋ねた。

やっぱ女の子には、優しくしないとね。


「は……い……。す……すみませんっ」


消え入りそうな声で答える彼女。

可哀相で怒る気にもなれない。


「はい。気、つけや。粉まみれになるとこやったわ」


「え……」


途端に彼女の顔が青ざめる。

やべ……泣かしちゃいそう。

オレは慌てて否定した。


「冗談!……冗談やで!」


あはは……。

冗談通じないタイプなのね、消し子ちゃん。


手にしていた黒板消しを彼女に手渡すと、一部始終を見ていたであろう、みんなの元へ行った。


「オマエ、何やっとんねん!」

「つか、ありえへんやろ-?」


みんなが口々につっこみを入れてきた。


すると消し子ちゃんは、また一目散に逃げて行ってしまった。


「ぶっ……あはははは!」


たまらず笑い出した。

不思議そうな顔をしてるみんなに、今までの“消し子ちゃん伝説”を面白おかしく語った。

みんなもその話には興味津々で、それからはいつ彼女が窓辺でパンパンするかと楽しみに待っていた。


けれどその後、彼女が窓から顔を出すことはなかったんだ。


そして、秋になり、やがて冬へと季節が変わる頃、オレ達もいつしか中庭には行かなくなってた。
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