俺様副社長に捕まりました。
そして私は水沢さんからとんでもないお願いをされた。
「来週、丸菱商事主催のパーティーがあるんだが、君を同行させる」
「え?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
水沢さんは表情一つ変えずさっきと同じ言葉を繰り返した。
同行させる・・・
それはお願いではなく。決定事項の様な言い方だったが冗談じゃない。
私が何で同行しなくてはいけないの?
私は単なる家政婦で秘書でもなんでもないし・・・それこそ
恋人でもない。
「それはできません。私は家政婦でー」
契約と違う。
そう言おうとしたら
その話は所長にも話を付けてあると彼は言った。
その言葉は拒否権はないといった勢いだった。
全てが命令口調。

でもいくら所長と話をつけたといっても私はもう秘書じゃない。
単なる家政婦だ。それに前の会社にいた時のような華やかさなどもうなかった。
化粧だってほとんどしていないし、服装だってスーツやワンピースではなく
動きやすいカジュアルなものだった。
今更秘書まがいの事はできないし、パーティーなど場違いな場所になど行けない。
「私は単なる家政婦です。水沢様の行かれるような場所に私のようなものは場違いだと思います。
どうか他の方にお願いしてください」
私は深々と頭をさげた。
だが水沢さんは急に不敵な笑みを浮かべたかと思うと、さっきまでの紳士的な態度から一変

「元専務の秘書だったんだからそれくらいできるだろう?」
「え?」
「恋人が重役の娘と結婚することになったことで、会社に居づらくなって秘書を辞めた・・・
そうだろ?小野寺桃花」
口角をぐっと上げ私を上から見下ろす様な視線に私は固まった。

やっぱりこの人私の事何もかも・・・知っていたんだ。
未来以外知らないはずなの本当の退職理由を・・・
落胆する私に水沢さんは先ほどの大きな荷物を私に差し出した。
「パーティーに着ていく服はこっちで用意したからこれを着るように」

もう私には拒否権はなかった。
返事もできず目の前に置かれた荷物をみると
誰もが知っている有名高級ブランドの名前が書かれた紙袋がいくつもあった。
でも全然嬉しくない。
なんで私がこんなことまでしなきゃならないの?
なんで所長はこんな馬鹿げた依頼を承諾したのよ!

「当日はここから出発するから、身支度はこの家でしておくように」
水沢さんは言いたいことだけ言うと突き放すように
もう帰っていいと立ち上がり書斎に入った。

私は暫く立ち尽くすことしか出来なかった。
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