最後の恋にしたいから
と言われて、ふと思い出した。

そう言えば課長って、去年までタイ支社にいたのよね。

たしか、三年間だったような……。

「そうですよね。海外にいたんですもんね。確かに、厳しいことが多そうですもん」

思わず肩をすくめると、課長は小さく笑った。

「もちろん、本社も厳しいけどな。だけど、オレはみんながイメージしている様な、いい男じゃないよ」

「え?」

またもや、意味深とも思える言葉に引っかかる。

だけど、それを聞き返す前にお風呂場から電子音が聞こえてきて、会話は中断した。

「あ、乾燥が終わったみたいだ。着替えたら送るから」

結局、その話をそれ以上深堀は出来ず、私は課長のマンションを後にする。

さすがに、家まで送ってもらうのは気が引けると丁重に断ってみたけれど、夜は物騒だからという課長の優しさに甘えさせてもらって、車で送ってもらったのだった。
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