第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~
「其れじゃ、ナタリア。話を続けよう。」


如何やらギフトとナタリアは、話の続きだったようだ。ギフトがナタリアを話に戻す。


「はいよ。...何の話してた?」

「ナタリア...、君年なのかい?『不思議の国』についてだよ。後、ついでに僕の傷の手当てね。」


ギフトはもう何時もの調子を取り戻している様だ。
数時間前まで真っ青だったのによ。


「俺の本業が“ついで”かよ。」


ナタリアが苦笑いを浮かべながら、ギフトに体を向け直す。
確かに、ナタリアは一応医者だからな。一応。


「僕にとってはナタリアの情報の方が、大事なの。怪我なんか生きてりゃ治るんだから...ね。」

「“ね”じゃねぇーよ。馬鹿野郎。まぁ良い...そっちにはディーブが居るんだ。そう心配する程でもねぇーだろ。」


ナタリアの言葉にディーブが、嬉しそうな反応を示す。褒められたんだから嬉しくて当然だと思うけどな。


「話が早くて助かるよ!じゃ、話してくれ。」

「俺、仮でも年上なんだけどな...。
じゃ、俺が出会った少女について話すな。大した会話てないから、期待すんじゃねぇーぞ。」


ギフトは頬杖をつきながら、笑顔で頷く。
俺も話を聞きたくて、自身の椅子に腰を降ろした。


「少女は白いウサギのぬいぐるみを持っていた。そんで最初に一緒にいたレリィ神父にこう話し掛けた。“白ウサギは何処?”と、次に持っていたウサギのぬいぐるみに向かって“白ウサギは見つかったよ。”と言った。
まぁ、これだけだ。」

「白ウサギは見つかったのか...。誰だ。」


早速ギフトは頭を働かせて、白兎が誰なのかを特定しようとしている。
先程の言葉だけで解るのか...。ケビンもそうだが、良く解らない思考回路だな。
俺は全く持って理解出来なかった。

ナタリアは一息つくと、椅子から立ち上がった。
ついでに足の近くに置いていた黒い革製のバッグを手に取った。


「おい、ギフト。話しが終わったんだ、見せるもん見せやがれ。」

「あっ...、そうだったね。忘れてたよ。」

「お前な~、少しは自分の体の事を、理解して動けよ。人とは違うんだからさ。」

「解ってる、解ってる~。自分の“死”が解らないって事でしょ。」

「解ってんなら、ぶっ倒れんじゃねぇーよ。」


ナタリアが呆れて溜息を吐いているのにも関わらず、ギフトはへらへらとあの笑顔を崩さずにいた。
如何いう頭をしていれば、あの笑顔を崩さずにいれるのだろうか。
理解するだけ無駄というものか。
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